趣味のみぞ語るセカイ

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【レビュー】朗読者(ベルンハルト・シュリンク)

 ミステリよりも純文学。

 

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 今回取り上げるのはベルンハルト・シュリンクの『朗読者』である。2月の「今月のタダ本」で取り上げた今作であるが、四カ月温めてようやくこの度手に取った。

 

 話としては、主人公の15歳の青年、ミヒャエルが学校の帰り道に見知らぬ女性に看病されるところから始まる。ミヒャエルはその女性――ハンナに惚れ、男女の仲となっていくのだが、ある日、ハンナがミヒャエルの前から突如姿を消してしまう。

 

 ミステリー要素としてはハンナがなぜ姿を消したのかという謎はわりあいすぐにその理由が本文中で明かされる。なので、この作品におけるミステリー要素はハンナが姿を消した理由ではなく、ハンナがミヒャエルにしきりに「本を読み聞かせてくれ」とせがんだ理由である。ただそれも当時――第二次世界大戦時の情勢を考えればそれほど難しい問題でもなく、比較的に易しいミステリー要素である。

 

 この作品をしっかりと評価するのであるならば、この作品のミステリー部分ではなく、純文学的なまでにハンナを愛したミヒャエルの姿を克明に描写していることだろう(とはいえ、ミヒャエルは一度結婚するのだが)。ミヒャエルがハンナの為にひたすら自分が朗読したテープを送り続ける様は彼の健気さを感じさせる。ただ、その健気さもおそらくハンナに触発されてのものだろう。ハンナはそれほどまでに正直者で、それゆえに他から疎まれている側面があった。

 

 この作品はミステリとして読むよりも、純文学として読んだ方が、その美しい話の展開にほれぼれすることになると思う。是非、この現代ドイツ文学の傑作の世界観に浸ってほしいと思う。