【レビュー】人間椅子他九編(江戸川乱歩)
夏だし背筋がヒヤッとするものを。
春陽堂の「江戸川乱歩文庫」より、『人間椅子他九編』を取り上げる。
江戸川乱歩の作品集は様々あれど、これだけ表紙にインパクトがある作品集もない。装画を担当しているのは多賀新という銅版画家であり、独特な世界観を醸す画家である。江戸川乱歩のミステリアスな世界観を表現するのにこれほど適した画家もいないだろう(本格探偵小説を表現するのにはアンマッチだが)。この表紙に惹きこまれて以来、私は春陽堂の江戸川乱歩文庫を追いかけている。
「人間椅子」に戻ろう。この作品は1925年に発表された作品である。戦前の作品というと、どうしても古臭くてメリハリのない作品が多い中、この作品はわずか25ページほどの文量でありながら、息もつかせないスリリングな展開を見せる。これが戦前の作品なのかと疑ってしまうくらい現代でも通用する文章と内容である。
内容としては、佳子という作家のもとに原稿用紙に書かれた手紙が届くところから物語は始まる。その手紙は椅子職人から送られてきたものであり、彼が自ら作った椅子の中に入り込んだという経験を語った手紙であったというのが大まかな筋である。
言うまでもなく、この作品のポイントは最後の一段落である。この一段落があることで「人間椅子」が単なる恐怖小説でなくなる。推理作家・江戸川乱歩らしいオチであろう。
「面白い短編ミステリを教えて」と言われたらまずこれを勧める。暑い夏にこそこれを読んで涼んでほしいと思う。
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