趣味のみぞ語るセカイ

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【レビュー】恋文の技術(森見登美彦)

 森見作品の中で一番好きな作品です。

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 これほど面白い書簡体小説は他に存在しないだろう。通常、書簡体小説は手紙の往復両方が書いてあって成立するものだが、今作に関しては「主人公の守田一郎からの手紙」しか書かれていない。それなのにも関わらずどのような返信が来たかというのが容易に想像できる文章になっているため、非常にスムーズに作品を読み進めることができる。

 どの章も面白いのだが、特に面白いと感じるのはやはり第九話か。こんな恋文で意中の人をオトせるわけがないだろうというほどの盛大な空回りぶりである。そしてもう一つ面白いのはやはり第十一話「大文字山への招待状」だろう。この構造に気付いた時は鳥肌が立った。守田一郎が遊びで文通武者修行をしていたわけではないことがこの章でよく分かる。

 最後に、作中で守田が綴った至言を紹介する。

 

「守田一郎流『恋文の技術』を伝授致します。コツは恋文を書こうとしないことです。」

 

 文通武者修行をした守田が会得した「恋文の技術」が「恋文を書こうとしないこと」だというのもまた面白い。彼の失敗書簡集を見ていても恋文を書けないことは容易に想像できる。そのうえで彼が手紙の最後に書いた一言もなかなか感心するものである。果たして大文字山で守田は思いを伝えられたのか、その結果を知りたくもあり、どうなったか想像したくもあり、素晴らしい読了感であった。

 

 ぜひこの作品を読んでほしい。そして、読み終わった後にはきっと大切な人へ手紙を書きたくなることであろう。