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【レビュー】ヒトラーの試写室(松岡圭祐)

 戦時中の特撮技術をピックアップした力作。

 

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 今回取り上げるのは松岡圭祐氏の『ヒトラーの試写室』である。第二次世界大戦を目前に控えた日本とドイツが戦意高揚のために映画を用いるという状況下で、その当時の特撮技術に焦点を当てた作品である。

 

 登場人物の大半は実在するかモデルがおり、ストーリーの大部分が史実に基づいて構成されている。日本の特撮技術において「特撮の神様」である円谷英二を語らないわけもなく、今作においても中心人物として円谷英二が登場している。

 

 主人公の柴田彰は俳優を夢見て自宅を飛び出し、オーディションを受けるが、全くもって俳優の才能はなくオーディションに落ちてしまう。そのオーディション会場で特撮技術助手の求人を見つけ、円谷英二に師事する。

 その後、円谷英二率いる特撮課が担当した「ハワイ・マレー海戦」が同盟国ドイツの宣伝大臣ゲッペルズの目に留まり、ドイツ語の話せる柴田が特撮技術を伝えるべくドイツに招聘されることになり、そこで「タイタニック」の沈没シーンを手掛けることになる。

 

 松岡圭祐氏は本当に内容の構成をもって読者を惹きこむのが上手い。本書自体は500ページ弱のそこそこ厚い作品なのだが、一度読み始めるとすいすいと読み進めることができる。また、本作に関しては大部分が史実に基づいているために、舞台となる日本やドイツがこの先どうなるかということが読者には分かっている中で物語が展開されていくため、登場人物達が時代の波に左右されるたびにその先を想像してしまう。

 

 そしてこの作品を読み終わった後に当の「ハワイ・マレー海戦」の実際の特撮シーンを見てみたが、これが戦時中に撮影されたものなのかと疑ってしまうくらい見事なシーンになっている。CGをはじめとするさまざまな映像技術に溢れている現代でもそう思うのだから、これが公開された当時にこの映像を見せられたらさも本当のように思ってしまうだろう。それくらい、当時の特撮技術はレベルの高いものであった。

 

 時代の波に左右された特撮課の面々がどのようにしてあのような見事なシーンを撮影しえたのか、是非今作を読んでその技術を知ってほしい。