新海作品史上、最も難解な異色作。
今回取り上げるのは新海誠氏の映画「星を追う子ども」である。新海氏の4本目の映画であり、今までの新海作品とは異なり、かなりファンタジー要素の強い作品である。
内容はというと、父の形見である石を用いて鉱石ラジオから不思議な歌が流れてくるのを聴くなどして過ごしていた渡瀬明日菜はある日、山の中で異形の生物に襲われ、「アガルタ」から来たという「シュン」と名乗る少年に助けられるというところから話は始まる。その後、舞台をアガルタに移し、新任教師の森崎と共にアガルタの世界の果てにある「生死の門」を目指して旅をするというものである。
この作品でピックアップされるのは「生死」である。とりわけ、死を良く描く作品であり、登場人物の一人である森崎も亡き妻を甦らせるためにアガルタを目指しており、妻を甦らせるためなら何も惜しまないという性格である。死者を甦らせるということに対して、この作品はさまざまな考え方を提示してくれる。
死生観を取り扱い、なおかつファンタジー要素の溢れる地下世界を描いている作品であるため、1度見ただけで作品内容を理解しようというのはかなり難しい。だからこそ、何度も見ているとこの作品のアジが出てくる。
作品に対して「ジブリっぽさ」は確かに感じるし、新海氏本人もそれを意識していることは公言しているが、だからといって「パクリ」の一言で片づけてよい作品ではない。食わず嫌いで毛嫌いするのではなく、是非複数回見てこの作品のアジをしっかりと味わってほしい。
そしてもうひとつ。この作品の主題歌である「Hello Goodbye & Hello」が本当に良い歌である。作品を見てからこの曲の歌詞を見ると本当に染み入る。人を甦らせることはできない。だからいつまでもそれを引き摺っていないで、新しい世界に踏み出していかなければならないというテーマは、今でも強く強く心を打つ、まさに「名曲」であると思う。