【レビュー】おかえりシェア(佐野しなの)
人生は選択だ。
今回取り扱うのは初めましての作家さん、佐野しなの氏の『おかえりシェア』。
主人公の北平道子がある日飲み会から帰ってくると、自宅マンションの壁に穴が空いており、そこから隣人が顔を出していたというところから物語が始まる。隣人の手近空が引っ越しの準備をしている際に過って穴を空けてしまい、彼が引っ越しをするまでの1週間を一緒に過ごすことになる。その際に、彼から提示された約束事が3つ。「毎日おかえりと言い合う」「毎日一度は顔を見せ合う」「毎日ご飯を一緒に食べる」。この3つの約束事を守りながら一日一日を過ごしていく毎に、徐々にお互いが惹かれていく。内容としてはよくありそうな物語である。
文体が軽やかですいすいと読むことができるが、内容は文体に反してわりと考えさせるものがある。特に中盤から終盤にかけては北平が今までの自分の言動に対して振り返る場面があり、今まで他人に迷惑をかけず、その場の空気をやり過ごそうとしていた自分の性格を少しずつ直していこうと決意するところが本作の核になる部分であろう。「他人に迷惑をかけていい」「人生は選択だ」という文面が、それぞれ今も印象に残っているところである。
彼女らが一緒に過ごす1週間で北平がどのように変わっていくか、2人が最終的にどうなるか、注目である。
それにしても、「おかえり」と言い合える相手が欲しいものである。
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