趣味のみぞ語るセカイ

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【レビュー】Iの悲劇(米澤穂信)

 一度死んだ村を甦らせる、「甦り課」の前に立ちはだかる数々の悲劇。

 

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 大好きな作家である米澤穂信氏の最新作。

 

 舞台は一度住民が全ていなくなった村である「蓑石」。そこに住民を呼び戻してもう一度村として復活させるIターンプロジェクトが発足し、「甦り課」がその担当にあたる。主人公の万願寺邦和は部下の観山遊香と共に甦り課の一員としてIターンプロジェクトを成功に導くべく、一癖も二癖もある移住者に向き合うのだが・・・

 

 設定でいえばミステリーよりもオシゴト小説向きである。しかしよく考えてみれば米澤氏のミステリで警察や探偵が主人公のことの方が少ないことに今更ながら気付かされる。

 

 甦り課には万願寺と観山の2人の他に、課長の西野が所属している。本作は連作短編なのだが、探偵役を務めるのはその多くが主人公の万願寺ではなく、怠惰な課長の西野である。西野は現場に赴くこともなく、部下からの報告書に目を通して蓑石で起こる事件の数々を解決に導く。見事な安楽椅子探偵ぶりである。ただ、同じ怠惰な安楽椅子探偵の『氷菓』シリーズ主人公、折木奉太郎と比べると不思議かな、どこか好きになれない。

 

 各章の解決までの流れがお見事なのは当然として、終章の種明かしもとても面白かった。果たして蓑石のIターンプロジェクトは上手くいくのか。その行く末を、手に汗握りながら追っていってほしい。