趣味のみぞ語るセカイ

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【レビュー】箱庭図書館(乙一)

 乙一×一般人=美しい物語

 

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 お恥ずかしい話で、乙一氏の作品を読むのはこれが初めてである。

 なぜこの作品を手に取ったのかは覚えていない。別に『箱庭図書館』に関する前情報を持っていたわけではないし、乙一デビューだとはりきって選択したわけでもない。そもそももしそうだったら絶対にこの作品は選択しないだろう。

 

『箱庭図書館』が乙一氏の、否、他者の著作も含めた他のどの小説とも大きく異なっているのは、この短編集に掲載されている全ての小説の原案が一般の方々だという点である。「オツイチ小説再生工場」というネット上の読者参加企画をまとめたのが『箱庭図書館』なのだが、やはりプロの手にかかると違う。設定は乙一氏が選択したということもあってどれもこれも面白い。それを乙一氏がリライトすることできちんと読める物語になっており、描写も豊かである。

 

 個人的には最後の作品である「ホワイト・ステップ」が最も好みである。並行世界を雪面の足跡と文字で結ぶというのはとても面白く、その世界観に惹きこまれてしまった。一要素加えるだけでこうも物語として自立するのかと思わされた作品である。

 

 短編集としては満足のいく物語なのだが、惜しむらくはこれ単体だと企画の意図が汲めないことである。現在もネット上では元となった作品を読むことができるのだが、可能であれば元となった作品も載せ、加えて何をどのように「再生」させたのかわかるようにしてほしかったものである。

 

 とはいえ、短編集としてはとても完成度の高い作品になっているので、ぜひ一読してみてはいかがだろうか。