【レビュー】魔法使いのハーブティー(有間カオル)
今回読了したのは有間カオル氏『魔法使いのハーブティー』。
有間氏の作品は『太陽のあくび』を読んだことがあるのだが、『太陽のあくび』の終盤部、TVショッピングのシーンでの読む手が止まらない臨場感に溢れたスピーディーな文章に引き込まれ、あっという間に読破してしまった。
今回の『魔法使いのハーブティー』は主人公の中学生、勇希が夏休みの間伯父の家に預けられるところから始まる。伯父こと「先生」は彼女に対して「この屋敷で暮らすにあたって、守って欲しい三つの約束があります」と告げる。その約束が、
1.なるべくエコな生活を送ること
2.働かざる者食うべからず。
3.偉大なる魔女が遺した館の後継者候補として、真摯に魔法の修行に励むこと
の3つ。1,2はまだ分かる。だが3の意味はまるで分からんよ。この突拍子のなさで、一気に世界観に引き込まれてしまった。だが、前述の『太陽のあくび』とは異なり、展開としては非常に穏やかにゆったりと展開していく。作品の雰囲気によってスピード感を変えることができるのは素晴らしい。
内容に戻ろう。先生はハーブティーをメインで取り扱うカフェを経営しているのだが、このカフェの客は常連のマダムをおいてほぼ皆無である。しかし先生はあまり気にするようなこともなく、このカフェに時折訪れる悩みを持った客(ほとんどの場合、初めに客として来店することはない)をハーブの知識やハーブの持つ力によって悩みの解決に導いていく。といった筋の話である。
先に言ってしまうとこの作品、魔法らしい魔法は一切出てこない。しかし、先生のさまざまな気遣いや言葉かけが悩みを持つ客を解決に導いていく様は、まさに魔法のようである。普段は気づかないだけで、ひょっとすると我々の周りにもその魔法は偏在しているのだろうし、魔法使いはたくさんいるのかもしれない。私もそのような魔法使いになれればなあと思わずにはいられない作品であった。